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東京高等裁判所 昭和57年(ラ)604号 決定

抗告人 育財信用株式会社

右代表者代表取締役 原明

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は別紙執行抗告状及び執行抗告理由書記載のとおりである。

本件抗告の申立は要するに、本件競売手続において抗告人が本件各物件につき短期賃借権を有し、その仮登記手続を経ているのにもかかわらず、これを物件明細書に記載しなかった違法があることを理由とするものと認められる。

そこで検討するに、本件記録によれば、確かに抗告人が本件各物件につき昭和五五年五月二三日期間を五年とする賃借権の設定を受け、同月三〇日その仮登記手続を経由していることが明らかである。

しかしながら、一方本件記録によれば、抗告人は本件各物件につき昭和五五年五月三〇日の売買を原因として同日付で所有権移転仮登記手続を経由していること、本件競売申立の原因となった抵当権は本件競売の申立人である日本住宅金融株式会社が昭和五四年四月二一日債務者である関志允との間で設定契約し、同日その登記を了したものであること、しかも抗告人の前記賃借権は賃貸借期間中の賃料全額が既に支払ずみとなっており、それにもかかわらず本件競売手続における昭和五六年二月の現況調査当時造成宅地である本件物件上には地上建物もなく空地のままとなっていたことがそれぞれ明らかである。

そして、これらの事実を総合すると、抗告人の有する前記短期賃借権は、本件競売申立人による抵当権の実行を妨害する目的に出たものか、もしくはその有する所有権移転仮登記とともに自己の債権についての担保を目的とするもので、右の目的実現までの間に他に対抗力を有する短期賃借権が現出することを予防し、その担保価値の確保を図るべく設定登記したものであって、いずれにしても現実の用益を目的としたものではないと考えざるを得ない。

しかも執行裁判所が民事執行法六二条により物件明細書に不動産に係る権利の取得で売却により効力を失わないものを記載するに当っては、その作成当時の権利状態によらざるを得ないところ、抗告人が本件物件明細書作成時までに前記短期賃借権につき本登記手続を了し、もしくは引渡を得たと認めるべき資料もない。

そうだとするならば、いずれにしても抗告人の有する前記短期賃借権は本件競売手続による売却により消滅すべきものであって、右六二条にいう権利の取得に当らないものというべきである。

従って、抗告人の有する前記短期賃借権を物件明細書に記載しなかったことをもって違法ということはできない。

二  よって、本件抗告はこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川上泉 裁判官 吉野衛 山﨑健二)

〈以下省略〉

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